11/10/2021

エモい水生植物

 


アポノゲトン・ディスタキウス

Aponogeton distachyus

オロンチウムに続き、懐かしい昭和の香りがする水生植物のご紹介です。これをエモいと言わずして、何をエモいというのか私にはわかりません。エモいって、こういう事ですよね。

さて、昭和の人間には、上の名称より、別名の「キボウホウヒルムシロ」がなじみ深いのですが、名前の通り、喜望峰のある南アフリカ原産で、ヒルムシロに似た楕円形の浮葉を出す、アポノゲトンの一種です。

アポノゲトンには珍しく、万人受けする観賞価値の高い花を咲かせます。さらにその香りがとても良いのが特長です。アフリカ原産で、さらに喜望峰の名が冠せられると、昭和の人間じゃなくても、ぐっと高まりませんか。今ほど情報もなく、海外がまだ遠かった時代です。アフリカは普通の人が行けるところではなかったでしょうし、エキゾチックに感じたんだと思います。今でも多肉や珍奇植物の楽園として、愛好家の憧れの地のままですものね。


ちょっと話は飛びますが、昔からの知り合いで、500種図鑑でもお世話になった、フリーの編集者、大美賀隆さん(「World Plants Report」というとてもカッコいい本を出されています。皆さんぜひご購読おすすめします)が取材のため、南アフリカに行かれたのですが、その際、私が渡したのは、旅費の足しになるような餞別でもなく、安全を祈るお守りでもなく、南アフリカ原産の水生植物のリストでした。せっかく行くなら、見て来て欲しい、写真と現地の情報を持ってきてくれないかとお願いしたのです。南アフリカには、本当に変わった水生植物がたくさんあるのです。ネットでも画像がほとんどなく、やはり現地じゃないとダメかとあきらめかけていたときだったので渡りに船でした。その時はスケジュールの都合で水辺まで行けなかったようですが、次回もと、またお願いしてあります。見てみたいですよね、びっくりするようなのがあるんですよ、ほんとに。やっかいな知り合いだと思われているかもしれませんが、まだ見ぬ水生植物のためです、やむを得ないでしょう。

さて、話を戻します。キボウホウヒルムシロが好まれていた理由には、間違いなく、丈夫で育てやすいという事が含まれています。アフリカという事で、暑いというイメージを持たれるかもしれませんが、南西岸部ケープ・タウンの年平均気温は16℃程です。高地では雪も降るようです。千葉県で栽培している経験で言うと、寒さにはかなり強く、屋外で越冬の失敗はしたことがありません。水鉢に厚く氷が張っても、枯死することはありませんでした。逆に暑さですが、現地は日本の夏のような暑さにはならないようです。ちょっと心配になりますが、これも、暑さで枯れるという経験は一度もありません。ただし、葉数は減り、夏に勢いを増す浮草に隠れて、いつの間にか見えなくなってしまいます。管理が雑なせいなのですが、それでも、毎年春になると立派な葉を出してくれています。用土は赤玉(田土、ソイルでも可)を使い、春先に肥料を施す程度の管理ですが、とくに問題は起きず毎年花を咲かせています。病害虫も思い当たらず、弱点らしい弱点は思いつきません。


好まれる理由にもう一つ、春先、いち早く花を咲かせることも挙げられます。うまくやれば秋にも花を咲かせるそうなので、厳密にはスプリング・エフェメラルとは言えないのですが、それと同じように、春の訪れを伝えてくれるのです。しかも、良い芳香が添えられているところがいいですよね。季節の風物詩になりますし、単純に花の少ない時期の貴重な存在です。メダカが活発になる時期とも重なり、もっと注目されてもいい水生植物だと思います。

花が咲けば簡単にタネは取れますので、増殖も容易です。逸出には厳重に注意しつつ、メダカ鉢(大きめ、深めがおススメ)で楽しんでいただけたらと思います。


webshop