12/13/2021

羽ばたくバルサミカ


 
ハイグロフィラ・バルサミカ
Hygrophila balsamica

羽根系ハイグロの最高峰は、やはり、バルサミカじゃないでしょうか。
羽根系ハイグロとは、ウィステリアを筆頭に、葉の縁が羽状に裂けるグループの総称で、ピンナティフィダやトリフローラなどが知られています。
そのなかでも、もっとも激しく裂けるのが本種バルサミカです。沈水葉のそれは、羽状全裂を通り越して、櫛の葉状になるほどです。

この見た目の特異さもさることながら、以前は毒のある水草として、幻の存在とされていたこともあります。ネットが普及する前のことですから、海外の雑誌で紹介された、断片的な噂のような情報しかなかったため、噂が噂を呼び、UMA的な扱いをされていたほどです。
ヨーロッパでは出回ったという情報はあるものの、日本に入ってくる兆候は見られず、どうしても見たくて、我慢できずにスリランカへ行った程です。

田舎のバンガローみたいな安宿の近くに、大きな貯水池(スリランカでは貯水池が多く見られます)があり、その周りがいい感じの湿地になっていて、これは何かあるぞと出かけたのですが、すぐにホテルのスタッフに危ないから行ってはいけないと、こっぴどく叱られました。聞いてみると夕方は野生の象が出るので、とても危険だというのです。すごい剣幕に、これは本当に危険なんだと諦めました。
その夜のこと、深い時間帯に外でなにやら大騒ぎがありました。朝になって聞いてみると、象がホテルの敷地内に入り込んだということ、それを追い払うのに騒ぎになっていたのです。たしかに夜中、ベットの中からあのパオーンという声が至近距離で何度も聞こえていたのです。ドライブ中に象を見かけて観光客としてお気楽に喜んでいたのですが、現地で共生するというのは、甘いものではないんだなと実感しました。

結局、バルサミカは見られなかったのですが、それが今では手軽に育てられるのですから、いい時代です。
さて、毒の件ですが、気中葉では危険だけど、沈水葉は問題なしという触れ込み。魚に優しい水草だと思っていたのですが、ふたを開けてみると、トリミングした気中葉を植え込んだりしても、魚は平気な顔、エビですら問題がありませんでした。種小名の由来になっている独特の匂いがあるのは事実で、それが噂として一人歩きしたのでしょう。もしくは、現地の土壌など環境要因で毒の有無が変わるのかもしれません。それならば、おそらく野生株が出回った昔のヨーロッパでは影響が出て、今、ファームで栽培されている株が安全と言うのも頷けます。
なにはともあれ、元、幻の毒水草も、現在流通しているものは安全ですので、安心して独特なフォルムを楽しんでみて下さい。